賃貸に見守りサービスを導入するとき、最初に決めること|機器より先に「誰が駆けつけるか」
単身の高齢入居者に見守りを付けると決めた。そこまでは早かったのに、調べ始めた途端に止まる——という相談をよく受けます。出てくるのは機器と料金の比較ばかりで、自分の物件でどう回るのかが書かれていないからです。
賃貸で最初に決めるべきは機器ではありません。異変を察知したあと、誰が部屋へ行くのかです。ここが決まらないまま機器を入れると、通知だけが届いて誰も動けなくなります。
賃貸に見守りサービスを導入するとき、最初に決めるのは機器ではない
見守りは「気づく」だけでは完結しません。制度もそう設計されています。令和7年10月1日施行の改正住宅セーフティネット法による居住サポート住宅は、居住支援法人等が大家と連携して「日常の安否確認」「訪問等による見守り」「生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎ」を行う住宅として認定されます(国土交通省)。気づく機能・動く人・つなぐ先の三点セットです。
裏を返せば、機器だけを入れた状態は制度が想定する見守りの一部分でしかありません(居住サポート住宅とは)。
見守りの方式は「人」と「デジタル」の2系統に分かれる
総務省行政評価局「一人暮らしの高齢者に対する見守り活動に関する調査」(令和5年7月)は、自治体の見守り活動を訪問による見守りとデジタルツールの活用による見守りに分けて整理しています。
後者はさらに、①室内の温度・湿度・照度・人の動きを感知するセンサーが異変を察知して事業者へ連絡が入るもの、②ロボットやタブレットで本人の姿の確認や会話ができるもの、③利用者が電話で健康状態を発信し見守りセンターが確認するもの、④本人が緊急通報装置のボタンを押して事業者と通話するもの、の4類型が挙げられています。
同報告書では、自治体から「人による見守り活動とデジタルツールを活用した見守り活動を組み合わせることが重要」との意見が多く聴かれたとされています。どれか一つで足りる整理にはなっていません。
異変を察知したあと、誰が部屋へ行くのか
同じ報告書が、デジタルツールを使う自治体の課題としてはっきり書いているのがこの点です。「デジタルツールで異変を察知した際、誰が見守り対象者の自宅に出向いて安否確認をするか」に苦慮している自治体がみられた——公費を投じる自治体でさえ、ここで詰まります。
通知の宛先を大家や管理会社にしただけでは、夜間・休日・遠方の物件で動けません。「誰が」「連絡が取れないときは誰へ」を決めない導入は、機器を入れても止まります。
駆けつけを頼める相手は3通りしかない
報告書が挙げた工夫は、次の3通りに整理できます。
- 事業者が駆けつける——緊急通報装置の貸与事業者やセンサー設置事業者が出向く形
- 行政機関や見守り協力員が駆けつける——親族、近隣住民、民生委員等が担う形
- 日常業務のついでに気づく主体を増やす——郵便局、ガス事業者、新聞販売店、商店、コンビニ事業者等が異変に気づいた場合に通報する形、配食・食材配達に併せて安否確認を行う形
賃貸で現実的なのは1と3の組み合わせです。2の見守り協力員は自治体事業の枠組みで貸主が単独で用意できませんが、地域で何が使えるかは地域包括支援センターに相談すれば分かります。駆けつけまで含めて賃貸向けに組まれている見守りの中身を見ると、自前で用意する範囲との線引きが判断しやすくなります。
契約するのは入居者本人か、大家か
見守りには、入居者本人や家族が契約するものと、貸主・管理会社が物件に付けるものがあります。どちらかで退去時の扱いも費用の負担者も、異変時に誰へ連絡が入るかも変わります。
本人契約は本人の意思で解約できるため、継続を確認できる仕組みがないと、いつの間にか止まっていることがあります。物件付帯型は継続性を保てますが、入居者の同意なしに室内の状況を把握する設計にはできません。先に決めないと後で揉めます。
鍵と立ち入りの取り決めは、申込みの時点で書面にする
報告書は工夫として、見守り協力員等が居宅内に立ち入る際に毀損が生じても修復責任を問わないことについて同意を得る取組と、協力員に鍵を預ける取組を挙げています。千葉県いすみ市の事業では、利用申請書が①関係先への情報提供、②緊急通報時の居宅内立入りを認めること、③立入りで毀損が生じても修復責任を問わないこと、の同意書を兼ねています。
賃貸でも同じ発想が使えます。合鍵があっても原則立ち入れないこと、例外の範囲は入居者と連絡が取れないときにまとめました。起きてから考えると間に合わないため、申込みの時点で書面にするのが現実的です。
誤報が出ることを前提に運用を決める
いすみ市の事業では、令和2年度の利用者572人に対し誤報を除く通報実績は44件。令和3年10月単月の対応実績は総件数58件で、うち誤報が12件です。緊急警報10件のうち誤報7件、一定時間ドア等の開閉がないことを検知するライフリズム警報6件のうち誤報5件でした。
誤報は失敗ではなく通常の挙動です。そのたびに人を出す前提では続きません。「まず電話で確認し、つながらなければ出向く」という段階を導入時に決めておきます。
「近所に見られたくない」という希望をどう扱うか
報告書には、デジタルツールによって「近隣住民に見られたくない」という高齢者のニーズに応えられるのではないかという自治体の意見が記録されています。断られる理由は必要性の理解不足ではなく、見られること自体への抵抗であることが少なくありません。
これは方式選びに直結します。訪問中心だと抵抗が出やすく、生活インフラのデータを使う方式なら室内に人もカメラも入りません(スマートメーターを使った見守り)。いずれも本人の同意が前提である点は変わりません。
退去のとき、部屋に何が残るか
機器には工事を伴うもの、置くだけのもの、既存設備を使うものがあります。退去のたびに撤去と再設置が要る方式は回転の早い物件では負担です。次の入居者が高齢者とは限らないため、外すときのことまで導入時に決めておくと後が楽です。
65歳以上の入居を実際に受け入れている物件の探され方を見ると、入居者側が何を条件に選んでいるかが分かります。まとめ:導入の順序を逆にしない
- 先に決めるのは駆けつけの担い手。機器の比較はその後
- 人とデジタルは組み合わせる。自治体の意見もそこに集まっています
- 鍵と立ち入りは申込み時点で書面にする。起きてからでは間に合いません
- 誤報は通常の挙動。段階を踏む運用にしないと続きません
見守りは機器を入れた日ではなく、最初の異変で誰かが動けた日から機能し始めます。物件に何が欠けているかは60秒のリスク診断でも確認できます。